諸葛孔明が今ですって言うやつの元ネタがわからない

羽田空港が雷撃で強襲され航空便がマヒしたという。水属性の私は出ていっても相性的にラムウには勝てないので、あきらめて静観しているしかない。翌日は東京日帰り出張の予定であり、というかこれを書いている日がまさにその日で、雷がやばかったのはつい昨日のことなのだが、あと3時間で飛行機は飛ぶはずなのだけれど前日に飛べなかった/降りられなかった飛行機が全国で「本当は俺、こんなところにいるはずじゃなかったんだ……」と異世界転生に失敗した中年男性が居酒屋でくだを巻くように腐っているので、私の乗るはずの飛行機もどうなることかまだわからない。機材繰りがめちゃくちゃになっているだろう。まあ航空会社はいつも機材繰りを言い訳に飛行機を止めたり遅らせたりしているけれど今日はたぶん本当にやばいと思う。予定通りのフライトが飛べば仕事をするし飛ばなければ今日は休みということでいいのではないか。休むと大量のGmailにぺこぺこと謝る日々がまたはじまるのでそれが気がかりだ。


今日は有休をとっている。しかしうっかりいつものクセで出勤時にIDをタッチしてしまった。あとで◯◯課の人に「有休申請してるのにタッチしてますけどしなかったことにします」みたいな過去改変をお願いしないといけない。本日職場にいるのはあくまで自己研鑽が目的であり労務は一切していません。院内研修の動画を見ながら研究会の準備をしたりスタッフの病理診断の相談に乗ったりする。これらを私は仕事だと認識していません。どっちかっていうとこの言い訳のせいでかえって不誠実になるというジレンマに身をよじる。院内携帯はオフ。でも別に電源を入れてもいいのかなという気もする。きりがないは屈託がない。無理があるは夢がある。ダウチテクノの創業者ふたりがそれぞれ名前を持ち寄って社名にしつつ連名で掛け軸まで書いているというのが『宙に参る』の設定の深さでありすばらしさだ。


「休むときはしっかり休まないといい仕事ができませんよ」と私に述べてきた人が私より充実した仕事をできていた試しがない。まあそこまで直接私に苦言を呈した人自体がゼロなので「ゼロ分のゼロ」という意味で試しがないのだが述べた内容自体まちがってはいない。私にとっては仕事をすることが癒やしであり休息の要なのだから、あまり人の休みをとやかく言わないでほしいと思う。誰も言ってないけど。しかし体は正直だ。そもそも私は上の口も中の口も左右の口も下の口もすべて正直だが体は特に正直だ。ちかごろは毎日、全身がお湯を浴びたかのように痛い。これはたぶん過労である。ただ、この痛みは日によって異なり、お湯がの温度がぬる燗や人肌くらいのときもあれば釜茹での油くらいのときもある。まあ総合的には疲れてないよ。そうやって自分と産業医を言いくるめていく。

本当のところは毎日私の体の中から痛くないところを探すほうが難しい。仮に「腹筋は別に痛くないなあ」と思ったとしても、とたんに脳の中の諸葛孔明が「空城の計です」と言い出して、痛くないところに兵を誘って一網打尽にする罠だと進言するので、痛くないからと言って私は決して油断しないのである。今日は首が痛くない。だまされないぞ。今日は膝が痛くない。ハニートラップだろう。ハは要らなかったか。サッカーは関係ない。だまされないぞ。


あと10分で職場を出る。10分で書けるところまで書いておこう。昨日は夜に甲子園の中継を見た。延長に入るとはじまるあの……なんだっけノックアウトじゃなくてタッチパネルじゃなくてなんかビシソワーズみたいな……ええと……「甲子園 延長 検索」そうだ! タイブレーク方式だ! あのタイブレークというのはなんというか野球をエンタメに落とし込む装置だな。賛否両論あるだろうけれど夜間とはいえ蒸し暑い真夏の甲子園球場でいつまでもだらだら延長を繰り返していると選手も監督も体を壊してしまうからあってしかるべきシステムだ。それにしても両校の監督が選手以上に日焼けしているのを見てなんかぐっと来てしまった。とうとう選手より監督のほうに感情移入する年齢になってしまった。まあ昔から、野球部の人間なんてそもそも生きる世界が違いすぎるから年齢が近かったとしても感情移入なんてしてこなかったんだけど、それはそれとしてだ。若者の代わりに自分でバットを振ったりボールを投げたりを決してやらない監督を見ていると涙が出てくる。ユニフォームに腹がおさまらなくなって餓狼伝説のチン・シンザンみたいになっとるやないかと涙が出てくる。

ところで近頃は誰もが、なんというか、感情移入という言葉の便利さに甘えすぎな気はする。感情ってそんなに移入オンリーでどうこうするものだったか? レイヤーを重ね合わせるように扱って彼我の違いを際立たせる感情差分抽出のときだってあるだろうし、自分が成し遂げられなかった願いを勝手に人におしつける感情仮託のときだってあるだろうし、プラグスーツを来てエヴァンゲリオンのLCLに沈む感情搭乗のことだってあるだろうになんでもかんでも移入ってそれ思考停止だよね。この、「思考停止」という言葉もずいぶんと雑に使われすぎな気がする。思考徐行運転のこともあれば思考乗り入れ接続のこともあれば思考乗継便のこともあるだろう。ああそうか、羽田便が心配なら仙台か伊丹に切り替えて新幹線にすれば少なくとも行きは絶対にたどりつくことができたなあ、今ごろ気づいてももう遅い、なぜなら私はあと7分でここを出るわけで経路をどうこう考え直して早回しで移動するような気持ちにはぜんぜんなっていないからだ。思考ハムスター遊ぶ系ぐるぐる玩具。感情自遊。えっ、「いにゅう」で変換して「自遊」が出てくるのってどういうこと? Google変換の罠? 空城の計です。