気が進まない講演のスライドをAIに作らせている。なんとなくできてしまう。もうこの時点でなにもかもいやになる。いやになるがそれでも、ならばせめて、AIをうまく使った講演をしないと出席者に申し訳ないなと思う。心の籠っていないスライド、何枚もできあがってくる、ひとつひとつ、眺める、なにもわかっていない。プロンプトに愛がないから出力されたものにも魂がない。これではだめだ。指も心も止まってしまった。まだ今日がはじまってもいないのにもう今日一日を走り抜けたような疲れ、体中が、缶詰をまとめ買いしたときのビニール袋のように、重力によって下側にびろびろと引っ張られ、むこうがわがすけてみえる。うすい。なにもかもだ。
現金をおろした。お札に対する愛着も執着も感じられない。どこか、にせがねのように見える。ペイペイ! とわめいてくれたほうが金銭というかんじ。いやな人間になったものだ。感情移入できない紙を革製の専用容器に納めるだけのこと。人差し指の先からひとつめの関節のよこのところに切り傷をつくってしまった。あ、今、私は、金によって傷ついた。今私は金によって傷ついた。下手人を幹事にわたす。本日の飲み会代金は12000円。うち自分の飲食代は6000円。
おりしも、「爆裂・がん遺伝子診療部(焼き鳥部)2026」というチラシをもらう。まだ先の話だが、出席する予定。A4の紙を4分割して作った小さなカラーのチラシ。日時、場所、料金、コース、幹事名が書かれており、はしのほうにちいさく「暑すぎて♡滅」と書かれている。温暖化で人類は滅んだ。焼き鳥2時間で7000円。やったぜ。もし私が学生だったなら、きっと7000円も払えば午前3時まで飲めたろう。ファズギターの時間まで飲めたろう。それにしては高いよな。でも、そもそも、いまどきの学生は、朝まで飲まないのかもしれない。
書評を書いてもらう。ありがたい。ほとんど販促をできていない近著、苦労してたくさんの人に温情をもらって編んだ本、10年前の私ならなにを差し置いてもSNSで宣伝ばかりしていただろう。今はなにもできていない。いや、まてよ、10年前の私こそ、SNSの使い方にもっとも慎重であったような気がしてきた。自著のありとあらゆる「効果的かつ安価な宣伝」を断ってきた。だったら、つまり、したがって、すなわち、私はずっと宣伝なんかしていないのだ。さて、書評を送ってくれる旧知の教授、ありがたい。足を向けて寝られない。まあ、この地では、北枕にならないようにすればそれは自然と誰にも足を向けて寝ていないことになる。北方領土にずっと足を向けて寝ている。失礼な話である。
AIをあきらめて電子で教科書を購入し、手書きでちまちまとトレースしながらイラストをつくる。まったくもってアナログな、牛歩のような作業に、急速に安心をする。血が通う。目が潤う。肺胞がひらく。Virchow-Robin腔のすみずみにまで気力が満ち満ちる。シナプス間隙に感激がさざなみのように伝播されていく。電子のバカ! 私は肉と血と湿度とともに、これからもやっていく。