土曜日の私は5:30のアラームをやり過ごして二度寝に入り、次のアラームはいつもよりもだいぶ遅めの6:30に設定してあった。出張時限定のむさぼるような睡眠。幸せを噛み締める。うつつの縁辺で意識レベルを下げる遊びの真っ最中、アラーム音以外は常時バイブレーション設定にしてあるスマホが振動した。気にせずにいれば幸せは続く、しかし、振動だけというのが気にかかる、スヌーズではないということだ。なんだろう、ちょっと慌ててスマホを手に取る。時刻は6:18。妻からか。アイコンをみる。1度しか振動していないのに未読件数が「2」。いやな予感がする。アイコンをタップすると果たして、JAL+JALからのLINEが来たことを示すLINE公式の通知(これほんとやめてほしい)。いつもはフライトの2時間前に来るはずのLINEが6:18に来た。つまりこれは、天候調査のしらせだろうか、天候調査のしらせであってくれ! と思って確認、それよりはるかに悪い、欠航のしらせなのであった。意識の上にのっかっていた重たいタオルケットのような睡眠の残像を地引き網のように引っ剥がして体を起こす。指とスマホの接地点がまだぼんやりしているがすぐさまANAのアプリを開いて代替便を探す、が、おかしい、該当する便がない、まさか、一日に3便は飛んでいるはず、運行状況を急いでチェックすると釧路・千歳のANA便は本日全便欠航している。心底驚いて窓の外を見る。うっすらと雪が積もっている。あまり知られていないが北海道の東部・太平洋側は雪が非常に少なく、釧路で雪が積もることはめったにないので、たまに積もると飛行機が止まるのだ。ANAの千歳便は判断(=あきらめ)が早いことに定評があり、JALの丘珠便はぎりぎりまで粘って結局飛ばないタイプの困った子だ。JALの次便は15:20釧路空港発。こちらはまだ飛ぶかもしれないので、いちおう予約をとっておく。私の乗るはずだった飛行機の同乗者たちが起床して予約をとりなおす前に急いで押さえておく、そうしないとすぐに満席になってしまう。ここまでの判断は、釧路出張20年をむかえる私の経験則によって行われる。しかし問題は、本日、小児外科学会の地方会でWeb講演を担当するということである。そしてその講演の時間が14:00~14:45だということである。うーむ空港で講演か。なんならこの講演の真っ最中に保安検査を通過するくらいのタイミングか。できればどこかに落ち着いておきたい。ここでようやくJRとバスの存在を思い出す。そしてすぐにがっくりとする。釧路発札幌行の始発、おおぞら2号は6:18発だ。飛行機の欠航を知らせる6:18の通知で起床したのだから、身支度にマイナス10分かけ、朝食にマイナス10分かけてから駅に向かってなんとかぎりぎりマイナス時間で間に合う、くらいの可能性であり、現実問題としてそれはちょっとぎりぎり人間には難しいのである。次便、おおぞら4号ならば札幌についてからぎりぎり講演が可能だが、あいにくの満席。指定・グリーンとも満席で、この特急には自由席がない。都市間バス、わかりにくい、検索をくりかえしてようやく出てくる予約サイトはやっぱり満席なのであった。ほかのルートを考えるがひとりでは難しく妻にLINEする。すぐに手伝ってくれる。いろいろ教えてくれる。タクシーで帯広あたりまで行ってみては? だいたい45000円くらいかかるらしいよ。そもそも帯広→札幌のJRが満席だね。レンタカーは? 乗り捨て可能のやつで札幌まで走ってみては。満車だね。釧路から網走まで釧網線で3時間ちょっと移動してから女満別空港から札幌に飛ぶと? ぎりぎり講演の時間に引っかかるね。羽田経由は? 今回の欠航が釧路空港側の問題だから羽田便もきびしいね。
札幌に移動してからの外勤先にも連絡をする。今日はちょっと無理そうです、明日、日曜日の午前中に、ひとつ別件の仕事をしてからうかがいますが、午後には旭川に移動するので業務量はいつもよりちょっと減ってしまうかもしれませんが可能ですか。外勤先で教わりにくる研修医にも連絡する。お休みの日に朝からすみません。本日ですが出張が難しく明日になります。
ここまでやって7時を過ぎた。結局、空港で講演をしてから夕方の飛行機で丘珠に飛ぶということ、それ以外には暫定的には選ぶ手段がない。ホテルにはチェックアウトぎりぎりまでいていいだろう。空港にゆっくり向かって昼飯を食い、13時から学会にログインして14時から講演、地方会の大会長にもLINEで連絡を送っておいた。夕方の飛行機も欠航したら夜のJRでちんたら札幌に向かうしかない。それはさすがに空いているだろう。ホテルの朝食会場に行く。いつもよりだいぶのんびりだ。窓の外は霧のようになっていてうっすらと細かい雪が降っている。このまま振り続けたら午後の飛行機も無理かもしれないなと思う。
今回の話をブログに記録して、今後、また似たようなことが起こったときのために備忘録にするのもいいかもしれない。そうやってこの記事を書いた。8時33分。書き途中に、あっ、と気づいてえきねっとを検索する。JRは全席指定になっているが、立ち乗りができるのではないか? 指定席未指定券はオンラインでは購入できないが窓口では購入できる。釧路から帯広あたりまでは席があるから適当に座って、帯広からたくさん人が乗ってきたらそこで指定席をゆずって、あとは2時間半デッキで立っていれば12時半には札幌に着けるではないか。なぜこのことに気づけなかったのか。指定席未指定券などという制度が新しくてまだあまり使ったことがなかったから気づけなかった。しまった。おおぞら4号の発車時刻はいつだ? 8時32分。ぎりぎり過ぎているではないか。今からいそいで身支度をしてマイナス10分くらいかけてネクタイを閉め、高速で後ろ走りしてマイナス10分くらいで駅に着けば乗車は可能だ。現実問題として人間にはぎりぎりこの選択は難しいのだが、しかし、試してみる価値はあると思って私はマイナス時間の準備をはじめることにした。書き終えたブログの文章がどんどん消えていく。