根がデスクです

研修医三名と学生、合計四つの学会発表を同時に指導している。ちょっと疲れた。しかし、某大学に勤めている剣道部の後輩(私より五つくらい下)は、たしか学生発表ポスター九枚をいっぺんに指導していたので、それにくらべたら私なんてぜんぜん大したことがない。比べてしまえば小さい。だったらあまり弱音も吐けない。

比べて、比べて、参る。

すると、人と比べてはだめですよ、みたいなことを言う女神が、後頭部あたりにぷかぷか浮かぶ。

でも女神様、お言葉ですが、学生や研修医の指導というのは相手がいる話ですから、もし私が今、人と比べて足りなければ、それはもうすぐに反省してどんどん取り入れていくほうがよいのではないかと思うんですが、いかがでしょうか? 湖に落ちた斧は上げますのでかわりにトラクターをください? はあ? 女神様っ? 女神を愚弄するなんて、こりゃ、とんでもないごっですな!(ギャグ)

人と違う仕事をしていると、自分だけが基準になりがちだ。そうなるとどんどん内向きに尖っていく。だから、私のようなタイプはがんがん人と比べたほうがいいのだと思う。隣の芝生が青ければ自分ちの芝生はエターナルブルー。隣の客がよくかき食う客ならば自分ちの客はよくこけら食う子ケラケラ。隣の家に垣根ができたってね! へぇー、かっきーねー! 今の一連のは特にギャグではないです。これはリズム。

他人とばかり比べず、昔の自分との比較もたまにやる。先日依頼された学術講演の内容は、長いことあまり人前で話してこなかったことで、ずいぶん昔に作ったプレゼンを引っ張り出してきて、これでなんとかラクに作れないかなとたくらんだのだけれど、10年以上昔の自分が作ったプレゼンは当時の自分の熱量がしっかり入っていて、それはまあいいとして、今の自分だと物足りないことは否めない。成長したと言えば聞こえはいいが、10年前にはこの状態で似たような業界の人を相手にべらべらしゃべっていたわけで、反省するほかない。これでよくみんな喜んでくれたなあ。かつての自分の仕事を見て思う。しかしそれ以上にぞっとするのは、今と似たような振り返りを、10年後の私がやる場合、「よくこんなレベルで……」と言われるのはまさに今日の私なのであるから、私のすべての羞恥心は励起し、安定軌道に戻る際に放射線を発し、私はその放射線によって変異を起こす。日々なんとかやりくりしている物語のDNAがずったずたになる。

むとは いったい! グゴゴゴゴ・・・。

ネオエクスデスとなった私はあちこちに顔を付けて画面の左側からずりずり登場するのだ。そしてなおもいろいろと比較しながら、誰もやりたがらない臨床・病理対比の仕事にひとり邁進するのである。いや待て。研修医の指導をしなければ。ひとり言うてる場合か。