遅くまで勤務するとエラーが出て、「本来の退勤時刻の60分以内に打刻がされていません」と注意が飛んでくる。本来ってなんだ、と思いながら言い訳を登録する。
17:15-18:00 学会活動
18:00-21:30 自己研鑽・勉強会
21:30-22:30 診療
でも本当はもっと細かい。診療しながら合間に学会のことを考えたり、勉強のための論文を読んだり。そこは仕分けしきれるものではない。けれども、そういう事情というか実際の様子なんてものは、どうだっていいのだ。だってこの中から「診療」とされた1時間だけが時間外労働とみなされて、働き方改革の上限と照らし合わせて「あんまり働いたらだめだよ」とお上に怒られる、その、怒られるか怒られないかを決めるために便宜上、仕分けているだけなのだから、現実としっかり照合する必要なんてないのである。適当にやっておけばいい。ただしその適当 adequateというものにも匙加減はある。
てきとう、さじかげん、およそのふんいき。大事なスキルだ。あいまいに耐え、未決着をストレスに感じないこと。ネガティブ・ケイパビリティ。
「エイヤッとまとめといてよ」「そーれで分けといて」。世の中が複雑であるなんてこと、百も承知だ。絡み合っていない人などいない。そのうえで、それでもわたしたちはお互いに、「ここはだいたいざっくり言ってこれくらいの感じでいいよね」と、お互いを雑にラベリングして収納しあう。それがコツだ。それがスキルだ。夏服と冬服の間に秋服があるが、いちいち衣装ケースを別にしたりしないのといっしょ。なんとなく冬ケースの表層1/3あたりに、寒くはなったけどまだ強烈に寒いわけではない日の長袖のシャツを畳んで入れる。それといっしょ。「これは秋にしか着ないものだから」などと、いちいち別のケースを用意するようなスタイリストは芸能人のほうに追いやっておけばいい。「困らなければいいよ、運用に支障がなければいいよ」くらいの気持ち。
こうやって言い訳を積み重ねていくと生活の多くが概算的になり、近似的になり、細部の凹凸が失われて暮らしが平坦になっていく。粒度が下がる。粒の立った新米のようなテクスチャの人生がよければ、仕分けは細かく念入りにやるに限る。17:15:00 - 17:15:35, Xでクソリプに返事する(自己研鑽の時間)。17:15:36-17:15:42, XでネタポストをRPする(自主的に行う研究の時間)。17:15:00-17:55:45(一部重複あり), 学会教育活動に関するWeb会議(社会貢献:大学外からの依頼), その最中に2分40秒, 1分55病, それぞれ電話応対(診療)。そうやって細かく記録したものをAI事務員に提出してなんかうまいことそれっぽくまとめてもらう。AIの描いたイラストのような、性根ががらんどうの魂の抜け殻みたいな私の暮らしが勝手に出力される。ご精勤ですね、いつもおつかれさまです。以上をxlxsデータにまとめて出力することもできますが、やりますか?