エスコンフィールドの魅力と食道胃接合部の反乱

水やコーヒーを飲んでとくに引っかかる感じがあるわけでもないから、さしあたって今日、私の胃や食道にはとりたてて異常はない。しかしなんだか今日は朝から胸がつかえた感じが続いている。理由はじつはわかっていて、昨日、スタジアムで野球観戦をしたせいだ。ああ、こう書くと語弊しかないけれど、つまり私は昼間っから野球を見て、翌日ちょっと具合が悪いということ。その話を、よりきちんと書こう。

13時開始の日本ハム VS ロッテの試合を見るのに、12時半すぎに家を出た。つまりはなから間に合う気はなくて、私は球場のすぐ近くに住んでいるわけではないから本気で試合開始から見ようと思ったらもっとはるかに早くに家を出るべきだ。でもそれでいいのだ。最近そういうかんじの、ふにゃふにゃとした野球観戦をたまにするようになった。出張帰り。午後にぽかんと時間が空いた。風が強いけれど雨までは降っていない日曜日。公共交通機関をあれこれ乗り継いで、エスコンフィールドにたどり着いたらもう試合は4回まですすんでいた。これで別にいいのである。中に入ると歓声とため息が同時に上がる。あっ、なんとなくホームチームの日ハムが打たれたのだな、とわかる。でも野球は打ったり打たれたり、勝ったり負けたりが楽しいのだからいっこうに構わない。

手元のアプリには「入場券」。特定の席に座れるわけではないが、この球場はありがたいことに、立ち見ができる場所がいっぱいあって、入場券ひとつでふらふら立ったり歩いたりしながら野球を見てもいいというすばらしい方針である。この見方が気に入って、私は今年から野球に通うようになった。

立ち見を満喫するには二つの条件がある。ひとつ、「立ち見が許されていること(そりゃそうだ)」。ふたつ、「周りも楽しそうに立ち見している状況でやること(これは盛り上がるためには重要)」。みっつ、「足腰がしっかりしていること」。条件ひとつ増やしたけれど最後のはちょっと見栄を張っていて、私の足腰はわりと心配である。ともあれ、エスコンフィールドでの日ハム戦観戦には前の二つの条件がしっかり揃っている。ここは立ち見が最高なスタジアムなのだ。

一塁側でも三塁側でも、二階席でも四階席でも、立ち見の場所には事欠かない。どこに立ってもフィールド全体がかなり快適に見られる。メインのスコアボードの視認性は抜群だし、じつはサブモニタもたくさん設置されていて、立ち見だからといって座った客よりも野球が見づらいということがない。

さらに見逃せない点がひとつ。立ち見の入場券は当日になっても売っているのだが、なんと「満席」という概念がないのだ。あらゆるチケットの中で一番安い1200円、これが思い立った瞬間にアプリでストレスなく購入できるから、あらかじめ予定しておかなくてもすぐに球場に行ける。こうなるともうデメリットは思いつかない。強いて言えば基本立ちっぱなしということと、荷物を下ろせないということくらいか。身軽な格好で来ればいい。というわけでデメリットはゼロだ。

そしてなにより、買い物やトイレに関するストレスから開放されるのが本当にすばらしい。席を立って隣の人の前で手刀をふりふりする必要がないのが最高。座席指定のチケットは、発売開始と共に通路側から埋まるものであって、数ヶ月前に買わないと(まして当日券などでは)まず通路側は空かない。通路から離れた「島の真ん中」に座ると、ビールを買おうと売り子さんに声をかけるだけでもほかのお客さんにちょっと申し訳ない気分になる。その点立ち見なら、好きなタイミングでビールやら焼き鳥やら買いに行けるしトイレも苦にならない。スタジアムで自宅のように好き勝手にうろちょろできるという倒錯した便利さにドハマリしてしまった。

というわけで私はスタジアムに着くやいなや、観戦場所を探して練り歩きながら途中ですれ違った売り子さんに声をかけてビールを購入。実況席のアナウンサーと解説の金村の声が直接聞こえてきておもしろい。あちこちにある液晶サブモニタでスコアや展開がある程度わかる。1点負けているようだがいい感じのシーソーゲームだ。2階内野席の通路で立ち見ができる場所を見つけてあとは試合を見る。ピッチャーの顔も球種も、審判のジェスチャーもよく見える。観客の声もよく響いておりムードは最高だ。ビールも進むというものだ。通常のビール3杯、たこやき6個、エールビール1杯をたいらげたところで8回裏が終わり、私はひと足早く帰路につく。9回まで見ると電車が混む。いまのところ1点差で負けているけれどもしかすると逆転するかもしれない。こういうときに長居して楽しく疲れるのはできれば土曜日にしておきたい。今日は日曜日だ、明日からまた仕事なので、続きはスポーツニュースで愉しめばよいのだ。それくらいの距離感がほどよいと思う。ほろ酔いより少し酔った頭で球場を後にしてJRに向かう。電車の中で速報を見て驚いた。本当に日ハムが逆転しているではないか。思わずちょっと声が出てしまった。サヨナラの瞬間を見届けられなかったのは少しだけ残念だが、帰宅してからゆっくり経過を追おう。幸い、まだ明るいうちに自宅に帰り着いた。小腹が減ってきたのであらためて晩飯とする。きっちりビールからやり直しつつ、アマプラで映画を1本見るあいだに結局3缶ほど追加で空けてしまった。ぐっすり就寝して月曜日の朝、4時半に目が覚める。胃が止まっている。

胃が止まっているのだ。

そりゃそうだ。昨日は飲み過ぎなのである。球場にいる間にいつもの晩酌よりちょっと多めのビールを飲んでしまっているし、帰宅途中に酔いが覚めるわけもないのになんかお腹すいたとかいいながらあらためてきっちり晩飯でまたビールを飲んでいるのだから酒量が多すぎる。早く寝て早く起きたら元気パンパンというのは20代の話だろう。朝食をお茶漬けにしたら普通に完食できたので、あっ胃腸もわりと大丈夫かな、と思ったのだが、なんとなく胸がつかえた感じが残る。やはりダメージは否めない。

野球は悪くないが野球観戦のせいで私は今日あまり調子がよろしくない。朝から猛烈な量の仕事をしてたくさんの医師に深く感謝されたがしかし私は調子がよろしくない。脳は絶好調だ、しかし胃が動いていない。皆さんにはエスコンフィールドの「立ち見」を強くおすすめする、ただし酒量にはくれぐれも気をつけてほしい。快適すぎて、胃が止まるほど飲めてしまうからだ。