漫画喫茶とジム。真逆と言えば真逆のサービスだけど、どこか似ている。自分のための時間を自宅以外で過ごすために空間に課金するシステム。
漫画喫茶は今後きついだろう。ネットカフェという言い方もあるけれど、いまや、PCをたまにしか使わない人があえてPCを使う場としてネカフェに行くケースはだいぶ減ったはずだ。無料Wi-Fiを探し当ててスマホでなんとかできてしまう時代に、漫画喫茶に行く人の多くは、紙の漫画を読む空間に課金して自宅以外でごろごろしたいという欲望の持ち主。
ためしに検索すると、札幌圏内、20年前にくらべて郊外の漫画喫茶はほとんど絶滅状態だ。店舗の多くは札幌駅やすすきのなどに残っていて、これはおそらくホテル代わりということだろう。映画「天気の子」でも主人公は漫画喫茶でシャワーを浴びていた。
15年前くらいにはたまに漫画喫茶に通っていた。ゴリラーマンとかストッパー毒島とかBECKとかをよく読んだ。あだち充もカイジやアカギも鉄腕バーディも漫画喫茶だったと思う。ジャンプ以外のマンガはたいてい漫画喫茶で摂取していた。昨年だか一昨年だか、ゴールデンカムイの全話無料キャンペーンがスマホ向けに展開されていたとき、一昔前ならこのマンガも私はきっと漫画喫茶で読み通したんだろうなと思った。
漫画喫茶のどんぶり飯が好きだった。安くてうまいしなぜかコンビニよりも若干ジャンクみが少ないような気がした。ドリンクバーのマシンがちゃんと清掃されているのかうたがわしかったがコーンスープ的なものをよく飲んだ。今にして思うと、いつ行ってもぎりぎり汚くないくらいの空間というのは、逆に毎日きちんと手が入っている証拠で、平均的には信用できる。空間を意図的に放置したときの汚れ方はあんなものではないということを私はその後の人生でたまに学ぶことになった。
思えば感染症禍以降の私は漫画喫茶を訪れていない。行きつけだったサッポロファクトリー近くの自遊空間もつぶれてしまった。進撃の巨人を全巻読み返すにもキングダムを1巻から復習するにも藤田和日郎作品を全話ウルトラトレイルランニングするにも、すべてスマホで済ませてしまえる昨今、私が次に漫画喫茶に行くのはいつなのだろう思う。サンキュータツオさんが寄席の合間に漫画喫茶だかラブホだかで足を伸ばして寝たことがあるという話を聞いてから、たまに私は「マット席」のあの水分を過剰に跳ね返す感じのやわらかさを思い出すことがある。ゆるやかに窒息するような空間で感じるタイプの平穏、かつての私が確かに惑溺していた半個室の汚い心地よさをうっかり遠ざかった近頃の私は、ときおりスタバやコメダで「人並みにゆっくり」しようともがいては毎回失敗している。何をやっているのか。何を履き違えているのか。お前の帰るところはスタンド電球の下だ。