昨日の夕方にふと思い立って知人の内視鏡医に「症例集」作成の企画を送りつけた。おおむね好意的なお返事をいただけたので、これから症例集積と執筆がスタートする。本にするかどうかはわからない。ウェブにまとめるか、パワポ用の資料として関係各位で共有するか。どちらでもいい。役に立つものができればいいのである。
ただ、朝になって、なぜこんな忙しいことを新たにはじめてしまったのかと若干後悔している。若干。やらない後悔よりやった後悔のほうがまし、理屈はそうだが、結局はなぜはじめてしまったのかと若干後悔している。若干。ずっと書き途中の原稿がじっとこちらを見ている。フラジャイルの非公式解説本もぜんぜん進んでいない。じっとこちらを見ている。
いそがしい。どうにかして秘書を雇えないだろうか。先立つものが必要だ。研究者番号を取得して、大型の研究費を通してそれで雇うというのが基本的なスタイルであろう。私にはとうてい無理である。大学にいないでそれができたらかっこいい。そして私はかっこわるい。それ以外の方法がなにかないだろうか。ロト6。堅実な方法がないだろうか。宝塚記念。「ベンチャーの下品な社長くらい稼いでいれば解決できた」という非情な現実を直視せざるを得ない。これまで私は金に興味がないままストイックに仕事をし続けて、仕事がぱんぱんに増えて秘書が欲しくなってようやく金の大事さに気づいた。ドラクエIIIにたとえるとルイーダの酒場でまほうつかいやそうりょを雇わずにせんし・ぶとうか・しょうにんでパーティーを組んでイキってぼうけんを始めたがアッサラームあたりで普通にしんどくなって「なんでこんなしょうもないメンバーではじめてしまったのか」と最初の選択を嘆くようなものだ。手遅れという便利な言葉がある。
英語と中国語がしゃべれて事務作業が早く、学会業務に精通していてパワポのデザインセンスがあり、博士・医学(PhD)と公衆衛生修士(MPH)を持っていて査読はお手の物、刑事訴訟法と経理の知識を持ちSNSに聡くメールの返信が早い、趣味がゲームと文芸の酒飲みを年収5000万くらいで10年雇いたい。そのために私がやるべきは医学をないがしろにして投資に身を捧げて10年かけて20億くらい稼いでおくことだったのだ。医療も研究もそこそこに寝当直のバイトで糊口をしのぎながら朝から晩まで投資の勉強をしておけば、低確率で今ごろはいわゆる「億りびと」になれていたはずだ。有り余る金を使って秘書を雇、それで思う存分医療や研究に邁進できたはずだ。もしそうなれていたら私は今ごろ医学のことだけを四六時中考えていればいい状態を達成できていたはずだ。ただし医療や研究をないがしろにして投資にかまけた私が果たして四六時中医療のことを考えられるのかどうかは定かではない。
エスコンフィールドで何度か野球をみているうちに、広告が目に入ってパワプロが気になり、アプリをダウンロードして25年ぶりにパワプロのサクセスモードをはじめた。やることが多い。トレーニングは素振りに筋トレ、走力、肩、守備、精神とたくさんあって、チームメイトやコーチ、特別ゲストの五条悟や甘露寺蜜璃などといっしょに練習すればその分育成ボーナスがもらえる。シナリオによっては練習とはべつに特殊なタスクをこなすことで結果的にあとでさらに育成ボーナスがもらえる。さらにパートナー候補とも仲良くすればパートナーボーナスももらえて選手がより強力に育つ。しかし休息もしないと故障の確率が跳ね上がる。練習ばかりしていないでたまに遊んだほうがかえっていいイベントを引けたりもする。パワプロのサクセスというのは私が高校生だったころからずっとこうだ。こちらを立てればあちらが立たずのバランスをすり抜ける技術が求められる。八方美人の全方位気配り、シン・ゴジラの背鱗迎撃レーザー、足が8000本くらいあるヤジロベーをうまく立たせるようなプレイをすることでまれに奇跡のような名選手が誕生する。ノウハウは忘れたかと思っていたが感覚がそれなりに残っていたようで、久々のパワプロサクセスはまあそこそこ楽しかった。ところが、最初にできた選手がありとあらゆる能力完スト、特性てんこもりのいきなり最強選手になってしまった。どうも一気に興ざめして、なんだかやる気がなくなってしまった。ダイジョーブ博士に合わなかったのに全ステータスが100になってしまうというのはゲームバランスが崩壊していると私は思う。最近のスマホゲームというのはこれくらいじゃないとユーザーのアドレナリンを出せないのだろうか。野球の能力が最強で友人も多くて彼女もいて……。生き様として邪道。秘書を雇えるくらい金銭感覚に長けていながら医療人としての高みを目指して成功してしまったような居心地の悪さを覚えた。たまったもんじゃない。パワプロはぬるい。私の人生のほうがよっぽどゲームバランスがちょうどいい。何もかもうまくいかず全ステータスがGデフォルトだからこそ、たまにたったひとつのステータスがDくらいまで上がったときに喜びがひとしおになるのだ。矢部くんがあいかわらず元気なのが唯一の救いである。