有能ならばトントンしてくれる

Zoom会議の接続直後に、事務局などから音声・カメラ確認目的で「よろしくおねがいしまーす」などと声がけされることはよくあるわけだが、Zoomに接続しはじめたタイミングでたいてい仕事の電話などがかかってきてその対応をしたりすることがなぜかよくあるわけで、となると、Zoom画面に私のデフォルトの表示名であるShin Ichiharaだけが表示されたままカメラもつかずマイクもミュート解除されず事務局担当者が何度も「市原先生よろしくおねがいしまーす よろしくおねがいしまーす」と点呼を取り続けるという地獄の阿鼻叫喚シーンが展開される。

目配せで(ゴメンネ今ちょっと電話だからちょっとちょろっと待ってて)とやれたらPCのほうが勝手にAI的なもので反応して先方にかわりに返事してくれるくらいのことをやれずに何がAIかと思う。人間がさまざまな努力によって克服してきた問題を代わりに上手にできますなんてことは別にそこまで大事ではないのだ。昔も今も人間が基本的にやりたくないと思っている仕事から順番にAI化したほうがいいに決まっているだろう。

たとえばメールで連絡すれば済むのにわざわざ日中に職場に電話をかけてくる人にはAIがそうと察して返事をすればいい。電話をかける直前の行動をスマホで勝手に収集しておいて要件がクソだったり文章で十分やりとりができそうな場合には電話をつなげない、もしくはAIが変わって「この要件についてはメールでのやりとりが推奨されています」みたいに返事してくれればいいのだ。それができないくせに何がAIか。

生成AI? 生成するのは楽しいだろうが! 楽しい仕事を奪うな! 楽しくないことをやれ! ブルシットジョブAIとか尻拭いAIとか理不尽な怒鳴られに替わって謝罪AIとかを開発しないで何がAIか。


Zoom講演にあまり慣れていない人が発表やらレクチャーやらをするとき、自分のマイクミュートを外したあとに「聞こえてますかー。聞こえてますかー」と連呼する。パワポを共有したらしたでまた「共有できてますかー。できてますかー」と連呼する。「聞こえてますか―。映ってますかー」。うるさい。AIが代わりに返事をするといい。そういうAIをぜんぜん開発してくれないくせに何がAIか。


ゴミの分別を自動でやってゴミの日の朝に代わりに捨ててくれるAI、生ゴミ回収の日がまだだいぶ先なのに生ゴミがたくさん出るような料理をしようと思ったときにトントンと肩を叩いて代わりのメニューを提案してくれるAI。

掃除機をかけていて気持ちよく汚れがとれた実感ができる場所だけを人が掃除しておけばその他の見落としがちな隅っことか裏っ側とかをあと適当に掃除しておいてくれるAI。

目上の人との会話がなかなか終わらないときにその人の肩をトントンと叩いて「そろそろやめにしたら?」と止めてくれるAI。


これからのAIの基本は肩トントンだ。それくらいやってから偉そうに言え。何が病理AIだよ。雑務もできねぇくせによ。