でんこうせっかと言えばうまくオチたのに

合宿のとき寝言で「ピ、ピカチュウ!」って言ってしまったばっかりにあだ名が睡眠時ピカチュウ症候群になった悲しい同窓生と酒を飲んでいたところ、なかなか意味深なことを言った。

「飽きるということを、もっと許さないとだめなわけよ」

はあそうですかその心はとたずねると、彼女はつまり仕事とか人生に飽きてきたのだという。OK許そう。ありがとう許されよう。この会話頭緩そう。ありがとう緩されよう。しかしさあ、20年以上おんなじことやったら普通は飽きるよね。まあね。あんまり言わないようにしてきたけどさ。ていうか仕事するために生きてるわけじゃないから飽きてたって別にいいんだけど。そういう会話の中でしかし途中で急に声を張る。

「いや、仕事するために生きていいと思うよ!」

「そうだ! バカにするな! 仕事一筋だ!」

これ酔ってるだろ我々。声下げろ下げろ。しかし確かに同感だ。私たちは昔から思っていた。「趣味」とかそもそも雑なラベリングだ。生きがいという言葉ひとつあればあとはそれ以上再分類しなくていいのに、人はすぐ、仕事と趣味を分けようとする。それどころか、「趣味を仕事にするのはよくないよ、趣味が嫌いになっちゃうから」みたいなことを言う。何を考えてるんだ。仕事をなんだと思ってるんだ。そうだそうだ。趣味なんかいらないよな。仕事が好き、仕事で生きていく、それで必要十分だろう。「趣味がない人生なんてつまんない」とか自分の分類基準で他領域の疾病を分類しないでください。急に医者みたいなしゃべり方するのやめてください。で? それで?

「うん、それで、仕事するために生きてきた我々がさ、ここにきて、仕事に飽きても、それは別にいいと思うわけ」

あーそういう話かあー。

えー話複雑じゃない?

いや言いたいことはわかるけど。

あ、いや、めちゃくちゃ言いたいことわかるな。

そうなんだよな私たちには仕事しかない。しかしその仕事に飽きてくることはあるんだ。それを許そうって話だろ。そうそう。で、それは許されないよな。そうそう。なんで許されないのかな。それは、仕事の鬼だからさ、周りも「あいつは無限に仕事するからどんどん頼もう」ってなってるからじゃないの。それって依存じゃん。うん共依存だね。

で、あれだろ、ここにきて仕事に飽きたら、次は趣味に行くとかそういう話ではないわけだろ。

「そう! そう! 仕事に飽きたら次の仕事! そういうムーブが許されたらいいと思うんだけどなかなかね」

それは許されづらいよなーと思う。すぐ虫が湧いてくるんだよな。壁の穴の奥とか床下とか蜘蛛の巣のむこうから。虫がな。うん虫。「ほらだから趣味のひとつでも持っておけばよかったのに」。クソ虫め! 潰せ潰せ! えっ汁が飛ぶから汚いよ。そういうときどうするか知ってる? えっ虫? 知らない。どうするの。あのータッパあるじゃん。タッパ。小さいやつ。100均でまとめて売ってるようなちっちゃい丸いやつ。丸い? 球? いや半球っぽいやつ。ああなるほど。フタついてるやつ。そりゃタッパだからな。うんそれが? うんそのタッパをな、まず、壁とか床を歩いてる虫にパカってかぶせるのよ。えっなにそこで虫が窒息するまで待つってこと? 違う違う、そのかぶせたタッパの下に、クリアファイルを滑り込ませるわけよ。どういうこと? ああこういうこと(テーブルにあるお通しの小鉢の下に割り箸のふくろを滑り込ませる)? そうそうそういうこと(テーブルにある店員呼ぶボタンの下に割り箸のふくろを滑りこませる)。あっそれでふたして持っていくってこと? そうそうそうやって持って歩いて外で捨てる。うわぁ殺生を避けてやがる……。来世も人になるための功徳だから。えっもう人はよくない? 来世は朝顔局員っているよな。ポッド許可局でしょ。そう。


「仕事一筋の人生だけど仕事が何種類かあってもいいよねって話だよね」


まあな。でも俺らみたいなタイプは結局ずっと同じことをしてる。それはそうだ。何をしているか。何をしているか。そうだなあ……紆余曲折をしてる。自問自答をしてる。切磋琢磨をしてる。そんな大層なもんじゃないよ。淡々自若とかどう? おっすごいよくそんな言葉知ってるね。黙々奉公とか? えっなにそれすごいね。そんな四字熟語ある? あったよほら。Poeかよ! もう私たちが考えるよりAIに聞いたほうが早いよ。そうだね。じゃあ聞いてみよう。「仕事に飽きてもいいんだよね?」



えっ待って一行目で飽きてその後ぜんぜん頭に入ってこない。わかる~