講演をしたら、質疑応答でとてもありがたい質問をいただいた。
「お話はおもしろく、私もこれからそういう目で病理を見てみようと思いました。ただ、先生と同じように検討するためには、 すべての病理標本に対して、CD34とかα-SMAのような免疫染色を毎回やらなければならないということになるでしょうか。日常診療で、そこまでやることは必要でしょうか」
質問そのものも興味深いのだが、この質問からにじみ出てくる病理医の仕事風景だとか周囲との関係といったものに、質問とは違う部分で答えてみたくてしょうがない。
しかし、いただいた質問とはぜんぜん関係のない方向の返答をするというのも気が引ける。
いい質問だなあ、と思いながら、とりあえず当たり障りのないところから回答した。
「ありがとうございます、やらなくていいです。日常診療で大事なことは、オタク心を満たすための細かい検討ではなくて、取扱い規約に書かれているチェックリストを過不足なく埋めること、それを長年にわたってぶれずに続けること、その一点です。CD34とかα-SMAなんてものは染めなくてもかまいません。病変の診断とは関係のない、動脈血流や毛細血管の血流などについて、類推を深める必要は、少なくとも病理診断報告書に含める必要は全くありません。これらは、病理検査室が義務として背負っている診断に対して資するところがないからです。
あくまで、研究的に、あるいは興味があって、この領域においてルーティンの診断以上のことをやりたいと、個人的に強く思った、あるいはそのような依頼を受けて深堀りする必要が出たときに限って、追加の免疫染色を染めていただければいいと思います。
ちなみに、これはご質問とはずれますが、私は、この領域にオタク的な興味があるわけですけれども、じつは今は、CD34もα-SMAも、染めなくてよくなりました。染める必要があまりありません。なぜかというと、私にはこれまでCD34やα-SMAを染めてきた経験があり、それらがどういうときにどのように陽性になるのかを、H&E染色から類推できるようになっているからです。すなわち、現在は、『他人に説明する目的』でCD34やα-SMAを便利に用いていますけれども、『自分のため』にはCD34もα-SMAも必要なくなっています。
これは、私が本来の病理検査室に許された職務や使っていい資源を、これまで少しずつ逸脱して、学究的興味を満たすためにいろいろ余計なことをやってきた蓄積があるからかなとお思います。ほめられたものではないです。私はCD34やα-SMAを必要以上にずっと染めてきました。ほめられたものではないですし、他人に推奨するものでもありません。ただ、今回お話したこの領域に限らず、どこかの領域で自分の疑問を解決するために何かを深堀りしたいと思ったならば、そのときは、ある程度の期間を定めて、CD34やα-SMAを全例に染めていくというのも、ひとつの手ではあると思います。
ただ、繰り返しになりますが、CD34やα-SMAを、日常診断に掲載して臨床にコメントで返すというのは、私は違うと思います。あくまで研究的興味としてやる、臨床からの依頼としてやる・そのときはきちんと研究費などを受け取る、もしくは自分のワガママでやる、というスタンスでよいのかなと思いました」
ブログで書くことでもないが、あとで自分で見直してまた考える気がするので、このまま置いておく。