待ったなしに待った

学会にいる。ホルムズ海峡についてみんな話している。誇張ではない。病理検査室で検体処理に用いるキシレンやパラフィンが不足し、あと2か月でさまざまな検査が行えなくなる、という話で、全国の病理検査室や病理部は大騒ぎなのだ。その真っ只中に学会をやっているので、中核ポジの人は多くがちょっと目がうつろである。どうしたものかと頭を抱えている。キシレン。パラフィン。どちらもなければ病理検査ができない。検査など遅らせればいいではないか、というわけにはいかない。患者から採取された検体を、ただちにホルマリンに浸漬して、そこから48時間以内に溶媒で処理してパラフィン(ロウ)に埋め直すことで、私たちは「ホルマリン浸漬パラフィン包埋 formalin-fixed paraffin-embedded (FFPE)ブロック」を作製し、そこからプレパラートを作るわけだが、このFFPEブロックの作製が遅れると、検体に含まれるRNAやDNAが劣化してしまう。するとどうなるか? 患者の検体を用いた遺伝子検査に支障が出て、「この遺伝子変異がある人にはこの抗がん剤が効くんですよ」みたいな治療が一切行えなくなるのだ。世界情勢も待ったなしかもしれないが、今まさにがんを持っている人だって待ったなしだ。でもその待ったなしに待ったがかかる。とんでもないことなのだ。マジでみんな頭を抱えている。

そういったことを考えながらホテルのロビーでPCに向かってメールを打っている。目がもうろうとしてくる。あと1時間するとまた座長をする。今日は20時半ころにアドリブで「講評」なる仕事をする日でもあり、それまでずっと気が抜けない。そんな中、どーでもいいメール、どーでもいい広告が、じゃんじゃん届く。「ゴミ箱」のボタンしかついていないことがもどかしい。「市中引き回しの上シュレッダー獄門」みたいなボタンじゃないとこのメールは廃棄できないと思うのだ。