ふくよかなはらわた

ドパオジ状態でぼうっとXを見ている。見たことのない話題、興味を持ったこともない話題、というのはあまり流れてこない。今日はひたすら関西弁の話、関西弁の人間たちの会話はほかの地域とちょっとちがうという話が流れており、ほか、エヴァを全編みなおした人のシン・ゴジラの感想、作者の名前が思い出せないがよく目にするウェブマンガ、中国のロボットが陸上を疾走する動画などが延々と流れて、それのどれにも全く心は動かされないのだがフリックに必要なくらいの振動が脳に与えられており、結果として15分ほど無為に過ごした。ドパオジだな、と思う。思えば倍速再生でもなんでも、ひとつのコンテンツを腰を据えてみるという行為のほうがよっぽど有意な時間になるよなあ、と、声にはせずとも文字にして思い浮かべてみると、そうかな、べつに、どんな体験もしばらくすれば均等に砂になって崩れていくのではないかな、という冷静な返答が、文字としてではなく声として聞こえてくる。報酬系のこと。報酬。報も酬も、訓読みは「むくいる」と読む。むくいるという言葉はむくいぬを思わせる。むくいぬは漢字で書くと尨である。さっと伏せた犬の象形文字であることはあまりにも有名。なんかこれ、ポスト向きだな、と思ってXにそのままポストする。


反応を待たずに仕事をはじめる。報酬をもらわないまま報酬系に奉仕している。奉も仕も、訓読みは「つかえる」と読む。うそである。奉はたてまつる・まつる・うけたまわる。うけたまわるという言葉はだいたひかるを思わせる。だいたひかるとはいったいどういう漢字を書くのだろうと思って検索したら「代田」であった。しろた、じゃないんだなと思う。しろたひかるだったら、白く光るふんいきだったろうな、と思うし、だいたひかるだと、紫立ちたる雲の細くたなびきたる、を思わせて、こちらのほうが名前としてはふくよかだな、と、声にはせずとも文字にして思い浮かべてみる。


「ふくよか」とは漢字でどう書くのかなと思って調べたら、二件が該当した。「脹」と「膨」である。なるほど、膨張ってことか……としばらく納得していたのだが、よくよくみると、膨張という字の張はゆみへんである。「ふくよか」のほうは、「脹」だ。「脹」? 大腸、小腸、の「腸」とも似ているが、ちょっとちがう。「腫脹」の脹。へえ、キータッチしているときはあまり気にしていなかったけれど、「膨張」と「腫脹」という言葉の、「ちょう」の部分はちがう漢字を用いるのだな。膨張という言葉は非生物にも使うが、腫脹という言葉は基本的に生命・臓器に使う、だからにくづきなんだろう、それにしても、私はおそらくこれをPCでなく自分の手で書いたら、今の歳までずっと書き間違っていたかもしれない。あまり意識していなかった。

脹という字はふくよか。腸という字ははらわた。ふーん。しかし、字面だけみてみると、脹という漢字のほうが、「長さ」を含んでいるぶん、消化管っぽい。大腸の腸が「ふくよか」という訓読みを持っていたら、おもしろかっただろう。私は病理医としての専門性のかなり上位に大腸病理があるのだけれど、もし大腸の腸が腸ではなく脹だったら、「私はふくよかな世界を専門としています」みたいなことを言えただろう。文字ではなく実際に声に出して言ってみる。「私はふくよかな世界を専門としています」どうしてだろうか、肌が喜ぶような感覚を得た。これは肉体からの報酬なのか、文化からの報酬なのか、単なる誤認なのか、ドパオジのドーパミンはドパドパ出るからもはやよくわからない。