旭川空港で1杯目のビール。機内で南山堂「治療」を読み、長嶋有「タンノイのエジンバラ」所収の「バルセロナの印象」にため息を付く。いい話だ。こういう小説だけ読んでいたいと思う。着陸後、羽田空港第1ターミナル内で寿司を食いつつ2杯目、3杯目のビール。カードラウンジでメールに返事を書き、4杯目のビールを頼んだところですこしだけ我に返った。一緒にラウンジに入ったはずの専攻医の姿がない。私がPCを開いたので気を遣ってどこかに行ってしまったのだろう。まあいい。あと1時間もすると乗り継ぎの飛行機でまた同じ旅路となる。たずねてみると金沢でも同じホテルを予約しているようだ。格安のホテルとなるとそう候補があるわけでもないからまあ似たところになるだろうとは思っていたけれど、経路も宿も完全に同じとなるとさすがにちょっとかわいそうだなと思うところもある。私より20も若い。しかし一人前の医者なのだ。そこに払うべき配慮というものはたくさんある。しかし私はそういう配慮が元来苦手である。
空港の書店で西加奈子の本を買った。内容はまったく知らないけれどおそらくいい本なのではないかと思う。3日後、金沢から東京に向かう新幹線の中で読もうと思っている。
今回の出張はもともと、ものすごく、気が進まない。私の専門性から完全にはずれるのに、私の新しく所属した職場の専門性のど真ん中なので、私の知らない人ばかりで構成されているのに、私がたくさんの事務仕事をしなければならない、というアンビバレントにも程がある、アンアンビバビバレントレントくらいの学会で、その運営なり事務仕事なりをたくさんしなければいけなくて私の体調はここのところずっと低空飛行だ。数日前から傷んでいた右の咬筋はもしかしたら帯状疱疹なのではないかと思う。なぜなら咬筋が痛いだけではなくて口の中にいくつかの「粘膜あれ」が出始め、唇にもぷつぷつと何か水ぶくれのようなものが出始めているし、おまけに左右の奥歯を噛み締めたときの圧というか感触みたいなものが左右で違うのだ、これは明らかに神経に巣食った何者かが悪さをしようとしている。ただ、典型的な帯状疱疹にしてはピリピリくる感じもしないしプリプリする感じもしないしポリポリする感じもしなくてパリパリする感じもしないのだ。三叉神経炎みたいなものなのかもしれない。いずれにしろこれは疲労によって引き起こされた、point of no returnの直前くらいで体調がタップダンスを踊っている状態なのだろう。ものすごく、気が進まないから、こういうことになっているのだろう。早く終わんねぇかな。この出張を早めに切り上げて私は東京で2つの仕事をする。いずれもこないだ出した本に関わりのあるものだが、1つ目の仕事のほうは本の営業からすこし逸脱して別の方面に根を伸ばしていく感じになっていて、それがまた緊張する内容ではある。たくさんの学会がよかれと思って整備しているホームページをひとつひとつダメ出ししていく、みたいな仕事に似ている。さてそちらもどうなることか。右の顎全般にどんよりとした懸念が襲いかかる。
老眼だなあ。飛行機の搭乗半券に書かれた次の登場時間をみるのに顔をすこし後ろに下げてしまった。
小松空港到着予定は21時40分、そこからバスにのって金沢市内に着いてホテルにたどり着くのはおそらく23時前だろう。素泊まりにしてしまったから近くのコンビニで朝飯を買わなければいけない。金沢の朝飯といったら何がうまいんだろうな。たぶん、ウインナーを挟んだパンだろう。しかしまあこういう人生を選んだのは自分なのだから責任もって楽しんでいかなければいけない。そうでなければ、私の人生がいやでいやでしょうがなかった、私から離れていったたくさんの人びとが浮かばれないというものだ。私より20も若い専攻医に告ぐ、私を反面教師とし、伸びやかに暮らせ。