助成金の申請が通った、採択された。はじめてだ。うれしい。教授と握手した。またすぐ次の申請書を書こう。アメリカの大須賀は四六時中申請書を書いていると言っていた。私は彼とはまるで生きている場所が違うし研究の規模もぜんぜん違うが、でも、その心づもりみたいなものは真似してみたいものだなと思った。次の申請書を書こう。
しかしこのへんで猛烈な眠気が来た。顔にふたつほど皮疹が出ている。さすがに疲れすぎているようなのでめずらしく19時台前半に仕事を切り上げて帰った。昨日、夜更けのスーパーに駆け込んで一週間分の食料を買い込んだばかりだからさほど買いたいものはないのだが、せっかくなので果物など買ってみよう、連日のスーパー。でも、今ナイフを使うと指先を切りそうだなと思って皮を剥くタイプの果物を買うのをやめる。結局マリービスケットだけを買って家に帰る。さあどうする。いつもより時間がある。シャワーを浴びて飯を食って片付けて、いつもはそこで寝るだけだが、今日は時間がある。シャワーを浴びながら考える。どうしよう。どうしよう。
Nintendo Switchは置いてきてしまったから今この家にはない。本棚。一度だけ読んだ本が並んでいる。いくつか抜き出して読めば、おそらく今晩をいい時間にできる、わかってはいる、しかし、今日は気持ちが切れすぎている。文字を読める気がしない。まぶたが落ちそうだ。さっさと寝てしまおうか。でも、あまりに早く寝ると未明に目が覚めてしまい、明日の日中に悪影響が出る。Netflixで古畑任三郎でも見ようか。ピントフリーズ現象で端末がやけに遠く感じるだろう。今、そういう目だということがなんとなくわかる。
いっそ職場で新しい申請書でも書いておけばよかったなと思う。
うっすらと壊れ始めている。
シャワーを終えて体を拭き、部屋着に着替えて、もう、あとは自動的だ。大量の乾燥お揚げをたんざく状に切って耐熱どんぶりの中にネギといっしょに詰め込んで上から絹豆腐のばらしたやつと乾燥わかめをふりかけて水を張ってレンチン500wで3分30秒。大量のキャベツを切って塩昆布をふりかけて一皿完成、大柄なサバを皮から両面焼いて、小分けにしてある冷凍米を解答。耐熱どんぶりに少なめの味噌をといてこれで4皿だ。15分でボリューミーな晩飯を作りわしわしと食べる。胃が野菜や魚や米をとても喜んでいる。洗い物を15分。食器はすぐにふきんで拭いてシンクのヨコに並べて寝るまでの間に乾燥させて、睡眠直前には戸棚にしまう。水回りも毎日きれいに拭く。浴室も毎週1度はバスタオルで拭いておくとよい。家を出るときにどこもかしこも乾いている状態にするといい。そうすると部屋がいつまでもきれいに保たれる。
今、私は料理が楽しいし、家事が趣味だ。さらにいえば、炊事洗濯のレベルに達しない名も無き家事の数々によって、かろうじて人間でいられている。ほかには何も趣味らしい趣味がない。なぜこうなっているのかな、と考えている。ふと気づく、家事というのはつまりは仕事だ、つまり私は、仕事を終えて家に帰り、趣味の仕事をして、それで人心地を取り戻している。そうか、私は本当は帰りたくないしずっと仕事をしていたいのだ、でもそういうことを言うと世間からも知人からも怒られるから、ちゃんと趣味があるよという顔をして、家事を仕事のようにこなしてドーパミンを得て満足している。
脳内麻薬に惑溺する昌国君のことを考える。諸葛孔明もそうなりたかったのだろう。私は彼とはまるで生きている場所が違うし研究の規模もぜんぜん違うが、でも、その心づもりみたいなものは真似してみたいものだなと思った。次の申請書を書こう。