早朝、札幌から旭川に向かう高速道路で、砂川と深川の間あたりに、「蝉の声に満ちた空間」を通過するタイミングがある。なんとも言えない不思議な感覚になる。車での走行中に聞こえてくる音というのは基本的に「通り過ぎる音」だろう。そのとき耳は自動的に「あのへんからだいたい聞こえてくるなあ」という感じで、音の発生源を感じ取り、さらに、その音が移動することで、自分が今どちらの方向に移動しているかも感じ取る。
しかし、蝉の声に満ちた空間ではこの感覚がおかしくなる。高速道路の両脇に広がる森のほぼすべてで蝉が猛烈に鳴いているために、「場を通過する数秒の間、車の周りの全方向から蝉の声が聞こえてきて、そのせいで音が空間を満たしていると感じるし、車がまるで静止したかのように錯覚する」のである。
図解するとこういう感じだ。
病理解説をしているときもよく思うのだが、この世には、図で解説するとかえってわからなくなるものがある。逆にそこを文章でがんばって説明しようとした『音の聴こえるメカニズム』は名著だと思う(むずかしいけれど)。