逆効果の言い訳

大連出張の際に事前にオンラインで入国手続きを終えられると聞いてぽちぽち入力。最後にQRコードがでてきて、入国のときに提示せよという。これは、スマホに入れておいてもいいが、到着直後にすぐにオンラインにできないこともあるだろうし、飛行機に乗っている間にスマホがまったく起動しなくなったら入国のタラップを降りずに帰国させられるウルトラクイズ状態となるので、印刷して紙で持っていくのがおそらくよいだろう。

電子化だのAIだのいろいろ言うけれど、クレジットカードだけだと怖くて現金を持っていくし(まだ両替していないけど)、結局パスポートは現物が必要で、VIVANTだとずいぶん簡単に偽造パスポートが出回っており、なるほど詐欺師はなにをどうバリアしてもすり抜けてくるものだなと思いつつ、となると、我々のこの面倒な手続きはつまり、我々が面倒になるためだけのものなのかもなと、少し落ち込んだりもする。とはいえ世の中には「雑な悪人」もおそらくたくさんいて、そういう人間たちを躊躇させるための必要なハードルなのだと思えば、100メートル走ればいいはずが余計に10メートル走らせられるハードル走の物悲しさもふくめて、まあ国境を飛び越えるときには跳ねるついでにいろいろ跳ぶのもやむなしかと納得するほかはない。

末尾に祝您生活愉快と書かれていた。そうだな。私の生活が愉快だといいな。

機内では某AI研究のアノテーションをやろうと思っていた。判断する画像が1700枚あるというから飛行機向きかなと思っていた。しかし昨日、ためしにはじめてみると、入力のために先方が作ってくれたUIがすごく使いやすくて、ものの1時間で1700枚くらいの画像に私の考えを入力することができてしまった。そうか、手続きの一切を簡略化させた場合、本来のヒト病理診断とはこういうスピードなのか。230万枚の症例を読ませたPRISM2がやべえなすげえなと思っていたけれど、たとえば230万を1700で割ると1300ちょっとであり、1日5時間病理に費やしたとしてもせいぜい270日だ、土日フルに休んでも1年ちょっとで見終える量である。1年ちょっと顕微鏡を見た病理医なんてまだ好酸球と好中球を見間違えるレベルだろう、だったらたいしたことはないのかもしれない。今の考察には重大な矛盾があります。PRISM2の230万という数字はパッチの枚数ではなくプレパラート枚数ですので両者を比較することは正確ではありません。なおPRISM2はウルセー!もういい!



学生が「歯医者に行くので」と言って帰っていった。16時半であった。はいどうぞ、と言ったのだが、そこでひとこと付け加えていった。「歯医者が平日しか空いてなくて……すみません」。私も毎月歯医者に行ってるからわかるよ。こういう言い訳は、かえって、内情のしめっぽい部分をスクラッチしてなにかを浮き立たせてしまう。学会の準備で忙しくて……。子どもの面倒を見なくちゃいけなくて……。そんなこといちいち言わなくていいのだ。だって、わかるもの。でも社会が長いこと、そういう言い訳をつけなければ自分の時間を過ごしてはだめなのだと、圧をかけ続けた結果、いまこうして、「逆効果の言い訳」を述べる人間が世に満ち溢れている。私もときどき言ってしまう。「すみません、毎日ぜんぜん寝てなくて」。そのくせブログには夢の話ばかり書いている。寝とるやないか。