人様

LINEが使えないんだよな、どうするの? 同行者にLINE Keepメモの存在を教えると嬉々としてパスポートの写真をとってそれをKeepメモに貼り、PCで開いて入国の審査に使っていた。あれ、これPDFだな、JPEGにするのってどうやるの? それはスクショでいいんじゃないですか。あーできたできた。あれ、画像どこ行った? 失礼、PCを拝見しても? あーもちろんもちろん。あっここにありますよ。これですよ。本当だ、やっぱり先生のほうがこういうのは得意だねえ……。

一回りよりも年嵩の、ベテラン内視鏡医は、デジタル音痴のオーラを醸し出す。あーできたできた。ったく事前入国審査にこんなに時間かかるんだからやってらんないよなあ。ようやくカレー食えるわ。あー冷めちゃったよ。でもカレーはここのほうが絶対うまいよな。あっちのはだめだ。

私が知らないラウンジの話をしている。

あーようやくカレー食えたわ。よしよし。まだ時間あるね。じゃあプレゼン作るわ。そうやってChatGPTを開き、次々とプロンプトを打ち込んで、「思考中」のときだけ私に話しかけてくる。プレゼンはジェンスパークってのが一番よかったね。でもあれ金かかるんだ。ChatGPTとClaudeが。課金はいくらにする? こういうスライドもしょっちゅう作るからな。

LINE keepメモを知らないのにAIは複数課金して使いこなしている個人事業主である。そういう時代になったのだなと思う。中国に入国したらChatGPTは使わないほうがいいよ。あれ、国際ローミングしてテザリングしててもだめですか? うん、それはね、危ないっぽいよ、中国がっていうよりもChatGPTのほうでブロックされたりするかもしれないよ。あっできた、あれ、スライド1枚しか出力してこないな。でもちゃんとできてるな、よし、これでいいや。スライド3枚できたよ。

引用は、出典は、そういう書き込みはどうしてるんですか、と問うと、ChatGPTに作らせました、以外に言いようがないよねえ、へへへ、と言った。「オリジン」という言葉が脳をよぎった。脳が「オリジン」という言葉をよぎっただけかもしれない。

気が重く、かつ、わくわくとしている。



はじめてベンチを使う大学院生2名が、はじめて携わった実験の、結果が成功だった。動画が送られてきていた。うまくいくんだな、と思った。飛行機に乗っている間に研究計画書を作りたい。飛行機を降りるまでの間にChatGPTを使おう。いや、うん、自分で考えよう。むしろ、自分で考えてみよう。そのほうが、共同研究者たちも、何かのひっかかりを感じて、私のほうを向いてくれるだろう。ひっかからない研究計画書が多すぎる。人間が路傍の花になる日を過ごしている。人間が電柱になる日を過ごしている。人間が、野球の合間に放送される、洗剤や車のCMになる日を過ごしている。人間。