よぉーし依頼のあった組織写真を取ってパワポに並べて解説を付けて共有ファイル内にアップロードして電話し終わったぞぉーっ、ギャー! ドンピシャのタイミングで受付からコンサルテーションのプレパラートがごっそり届けられて声帯が痙攣。な、な、なんというベストなタイミング。これより10秒早ければ私は複数の仕事を抱えてそれぞれのクオリティと自らのたるんだ肩をがっくり落としていただろう。これより10秒遅ければ私の脳内のパズーの親方が「ボイラーの火を落とせ!」と叫んで私は心のボイラーをシャットダウンしてしまい次の仕事に対応できなかったであろう。こうやって仕事というのは紡がれていく。縦の糸は彼方。横の糸は私。そのままの自分が持続するわけではなく、どこかからかやってくるさまざまな色味の糸に絡め取られて、その都度、織物となったり結節となったりしながらギッコンバッタン紡がれていく。人生。毛玉ができてる。
出張の旅程をいろいろ考えていた。最初に引き受けた大学の単発の講義だけならワンチャン日帰りもできたのだが、その後、せっかくだから夕方に講座で病理医にレクチャーもしてほしいと頼まれて、それはもちろんとても光栄な話なので二つ返事で引き受けるとして、交通手段はかなり複雑になってくる。平日の朝から移動して、うまく乗り継いで昼過ぎの講義には間に合うのだけれど、夕方のレクチャーが終わってからはどう急いでもその日のうちには帰ってこられない。一泊し、翌早朝から動き出したとしても、帰りはなぜか行きほど接続がうまくいかないようで、アプリの乗換案内通りに移動するならば講義の翌日も完全につぶれてしまう。講義に呼ばれて2日間欠勤するというのは申請のバランスとしてはあまりいいことではない、せめて1日半不在にして最後はおざなりな出勤をしつつ夜中まで残務処理をしながらみんなにヘコヘコ謝ってみせるくらいでないと新しい職場の信用はえられないだろうと思う。アプリを信用せずにいくつかの裏技を考える。このことをじつは昨日の夕方くらいからずっと考えていて、寝ている間、夜中にちょっと目が覚めたときなどもすぐに乗り換えのことを考えている。ああ、飛行機、遠回りするくらいの乗り継ぎを使えば、あるいはなんとか半日かけて帰ってこられるようだ、しかしこの交通費は先方からは出ないだろうな、早割でうまいことやったらどうかな、まあでも陸路がいいのかもしれないな。たくさんの本をかかえて読みながら帰ってくるというのも、体力的にはごっそりやられるけれど、こういう機会を用いて少しずつ本を読みためていくほうが、後で振り返ったときに「うまくやれてはいないけど、うまかった日々だな」と、なるのではないか。
オーディブルという手もあるのか。そうだな。遠方の病院の技師からの伝言用紙に、用件とは別に書かれていた近況報告として、「ちかごろは運転中にオーディブルを使っている、眠くならなくていい」というのがあって、私はわかりやすく影響を受けた。オーディブルって使ったことないけれど、どうなんだろうな、あれっと思って数ページ戻って読み返す、みたいなことをしょっちゅうやりたくなるような本には向いていないとか、そういう向き不向きみたいなものがあるのだろうか。それとも、オーディブルという「型」にはまった瞬間にそれは紙の本や電子の文章を読むのとは全く違う空間でぜんぜん別のルールの上で物語が流れ込んでくるから、元の読み口とはあまり関係なく楽しめるものなのだろうか。ひとまず東野圭吾や伊坂幸太郎の旧作なら、何も考えずに聞けるし読後感もいいんだろう、一方で、あまりに幻惑的なものを、特に運転中に読んでしまうと、心の中に車窓とは別の風景が展開してしまって、前方不注意とかになっても困りものだ。過去の記憶に猛烈に戻っていきたくなる本というのもいまいちかもしれない。椎名誠か。椎名誠がいいかもしれないな。椎名誠の本はずいぶん読んだけれど、もし、オーディブルになっているのならば、そのすべてをオーディブルで、疾走するように読み返して私は赤マントとなればいいのかもしれないなと思った。Amazonオーディオブックで検索をかけると椎名誠のコンテンツはなんと、たった8つしかない、私は思わず肩を落とす、ちなみにそうやって検索した中に異質な9番目、これはいったいなんだろうと思ってクリックするとそれは椎名へきるのASMR音声なのであった。耳かき・ヘッドスパ・炭酸シャンプー。運転中にこれはやばいのではないかと思う。